足立 崇(平成11年・普通科卒)
外務省に所属する医師、”外務省医務官”をご存じでしょうか?
私は現在、在ジブチ日本国大使館に一等書記官兼医務官として勤務しています。ジブチ共和国は東アフリカに位置する小さな国ですが、重要な海上交通路に近接しており、しばしば近海のソマリア沖に海賊が出没します。そこで自衛隊が海賊対処行動を行っており、そのための活動拠点がジブチに置かれています。現地は砂漠気候で、夏の日の最高気温は50℃になることもあります。電力供給は安定しておらず、蛇口をひねれば出てくるのは塩水です。普段の生活で娯楽と呼べるものほとんどありません。
この厳しい環境の中で、私が果たすべき任務は「ジブチの邦人の健康と安全を守ること」です。私自身は医師と外交官両方の役割を要求される立場にあり、主に以下の3つの職務を担っています。
1つ目は「医療業務」です。大使館員・家族等の診療で自分の手に負えない症状の場合は、紹介を受けて他国の軍病院に診てもらう必要があります。そのようなときのためにも、日頃から任国の医療機関の視察や医療関係者との交流を大切にしています。また、任国での医療対応が困難なケースでは緊急移送が必要になるため、その都度病態の重症度や緊急性などを的確に”見極める力”が求められます。
2つ目は「任地の医療事情調査と情報発信」です。ジブチでは感染症情報の公開が十分に行われていません。そのため直接保健省や国際機関(WHO等)を訪れて情報を入手し、そこで得た情報をもとにして外務省公式サイトの『世界の医療事情』のページで発信しています。また、任国でコレラやデング熱等の疫病が流行した場合は迅速に情報収集を行い、在留邦人向けに『たびレジ』等の安全情報配信サービスに随時反映させています。さらに最近、私は外務・防衛医療ネットワークを立ち上げました。大使館と自衛隊拠点の専門の異なる医療関係者同士の情報交換の場を設けることで他国の軍関係者とのつながりができ、確度の高い、幅広い情報収集が可能となりました。
3つ目の職務は「邦人保護」です。現地でいつ何時、邦人が危険にさらされるかわかりません。そのようなときに備え、タイで行われている在外邦人等保護措置訓練に医務班として参加しています。このような有事を想定したミッションに参加することも医務官の職務の1つです。
外務省医務官の仕事の魅力は、医療を通じて他国の医療関係者と交流し、そして世界の多様な価値観に肌で触れることができることでしょう。いつか世界のどこかであなたと出会う日を楽しみにしています。
写真:ジブチ人の日常(草の根委嘱員、岩崎さくら氏提供)
同窓会報「瀧」41号(2019年7月発行)掲載