第22回土曜講座記念講演会
科学の楽しさ
-私の経験から-
梶田 隆章氏
東京大学卓越教授
2015年ノーベル物理学賞受賞
2024年4月13日(土)に、22回目となる土曜講座記念講演会を開催しました。2026年度に創立100周年を迎えるのに合わせて、今後3 年間は100周年記念講演会としての位置づけもされています。本講演会は毎年、同窓会のご支援のもと運営されており、同窓会の皆様には厚くお礼を申し上げます。今年度は東京大学卓越教授で、2015年にノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章先生を講師としてお招きしました。
以下、講演の概略をお伝えいたします。
【講演概略】
今回の講演では、岐阜県飛騨市のスーパーカミオカンデというニュートリノの研究施設、KAGRA という重力波の研究施設で関わってきた研究を紹介し、科学の楽しみを紹介したいと思います。
中学生時代には将来の具体的な計画はありませんでした。自分の興味や適性を少しずつはっきりさせていけばよいと思います。いろいろなことに興味や目を向けてください。
ニュートリノは非常に小さく、目に見えず、何でも通り抜ける性質を持っています。直接観測はできませんが、他の物質と衝突した際の反応によって確認することができます。例えば、水中でニュートリノが反応し光が発生する場合、光検出器を使うことでニュートリノを検知できます。
カミオカンデは岐阜県飛騨市にある研究施設で、陽子の寿命を調べるために建設されました。大気中で発生するニュートリノがカミオカンデの水と反応し、光が出ることがありました。これが陽子崩壊の信号と似ており、実験にとっては邪魔者でした。ところが、ニュートリノの数が予想よりも少ないことに気づき、一生懸命調べました。謎を解き明かすようなわくわく感があり、このころが一番楽しかったです。
この謎の答えとして、ニュートリノがタイプを変えるニュートリノ振動の理論が考えられました。すぐ上の大気からくるニュートリノよりも、地球の反対側から来るニュートリノの数のほうが、飛行距離が長い分ニュートリノ振動がおこり、数が減少しているのではないかと考えました。新たに建設されたスーパーカミオカンデでの実験により、このことが証明され、1998 年にニュートリノ振動と質量を発見することができました。陽子崩壊の研究には邪魔者だったニュートリノから、予期せぬ発見ができました。これも科学の楽しさです。
ニュートリノの質量は、他の素粒子と比べて極端に軽いです。このことは宇宙の謎の解明につながる可能性があります。科学では1 つの発見が他の難問の解決の糸口となることがあり、これも科学の楽しさの一つです。
現在は重力波の研究に移っています。重力波の観測は非常に困難であり、最新の技術を駆使してようやく観測できるようになってきました。現在、スーパーカミオカンデと同じ山の中にあるKAGRAで、重力波の国際的な共同観測が行われています。
先生や仲間に恵まれ研究を続けられたのは幸運でした。自然科学の研究は世界の仲間と協力して自然の謎を解明していく楽しい仕事です。皆さんも科学に興味をもち、研究に挑戦していただければと思います。